BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

2021年の気になる図書館システム関係覚書

2020年中に気になっていて、今後、個人的に注目している図書館システム関係(公共図書館中心)に関する覚書です。独断と偏見でとりとめなく書いています。(ここまでほぼコピペ)

2020年は、コロナ禍をはじめほとんとにいろんなことがあり、特に私的に現在進行形でとてもつらい状況が続いていて、その気分転換に書いています。いつにもまして縮小かつ視野狭い内容ですが、ご容赦ください。なお、昨年のものはこちら。

図書館システム関係

そろそろ勤務先もシステム更新が見えてきたので、昨年はシステムベンダーさんのプレゼンを聞く機会が何度かあり、勉強になった。とはいえ、業務が関わらない(残念ながら)のだからシステムが進化するはずもなく、おお、と思わされるようなものは特になかった気が。まあ、成熟しているといえばしているのかも。

ブラウザベースのシステムは、流石にIEからの脱却が始まっている模様。Edgeでも動きますよ、という声をいくつか聞くことができた。ようやくIEから離れられる。やれやれ。しかし、いまだに商用データベースの多くは、IE11推奨になってて泣ける。特に新聞。IEだと紙面PDFを読みこんだら高確率でコケるんだよね……。

あと、自治体間を超えたシステム統一を検討せよとの話が、上から降りてきたと風のうわさで聞いた。お国が進めるDXとやらの一環かしらん。図書館業務と一口に言っても、ご当地ルールだらけでシステムはカスタマイズ前提の昨今、外圧とはいえ、業務・ルールの共通化が図られるのは良いこと。できるかどうかは別だけど。

ひょっとすると、予約やリクエスト、相互貸借などの各種申込みは原則WEBで受け付け、みたいな流れになって、今まで、「来館&紙に記入」が障壁になっていたお客さんを(よくも悪くも)呼び込むことになるかも。システム仕様書を決めるときは悩むかもなあ。

ウェブサービス関係

相変わらずカーリルさん周りはとても活気がある。Unitrad APIを活用した横断検索が進化して、図書館蔵書だけでなく、地域の博物館の収蔵品や文化財なんかも一度に検索できるようにした例が現れた。松本市図書館さんの「まつサーチ」がそれ。要はExcelシートみたいなリストがあれば検索対象にできるらしい。いろんな応用ができそう。個人的には、日本の公共図書館におけるディスカバリーサービスがここからはじまるのでは、と思わせる。

また、「学校向け蔵書検索サービス」も、可能性を感じさせるサービス。蔵書のリスト(ISBNなど)があれば、無償でOPAC作ります、という恐ろしく気前のいいサービスなのだが、なんと、公民館図書室や、WEBOAPCのない小規模な公共図書館も対象なのだそう。とりあえず都道府県立図書館の協力業務担当者は域内の公民館図書室やら小規模図書館やらに働きかけるべき。

なお、横断検索の実例を横断的に見てみたいと思ったら、Jcrossさんの「横断検索ナビ」が便利。タグで絞り込みも可能。

デジタルアーカイブ関係

ジャパンサーチが2020年8月に正式公開された。まだあまり使いこなしていないんだけど、どんどん多機能かつかっこよくなっていて、連携先も増えてるし、頼もしい限り。

国立国会図書館デジタルコレクションは、2021年1月、ついに全文検索機能が実装された。収録範囲はまだまだ少ないけれど、今後増えていくとのこと。GoogleBook検索では、検索語が載っているらしいことがわかってもスニペットしかなくてどこにあるのか見当がつけづらい(ページ数も間違ってることが多い)んだけど、NDLデジコレなら、うまく行けば原本画像にたどり着ける。これはありがたい。

個人的に大きなトピックだったのは、福井県立文書館さんのデジタルアーカイブ福井で、文化庁長官の裁定制度を活用して明治期の新聞画像が公開されたこと。おまけに、どのようにしてそれがなされたかについての報告*1があるのは嬉しい限り。手法もコストも、やればできるレベルなことが明確になった。なお、ここまで何度も紹介してくださってるのは、「こうすればできるから、みんなやってね、Do you undersand?」という強いメッセージだと受け取るべき、と勝手に思っている。

雑誌「図書館界」の連載「HOT TOPICS〈テーマ1 地域資料とデジタルアーカイブ〉」*2も面白かった。福島さんの「デジタルアーカイブのスリムモデル」が、基礎自治体デジタルアーカイブの一つのスタンダートになるといいと思う。

なお、図書館・デジタルアーカイブと人文学(文学研究)のコロナ禍後の動向と今後の指針については、岡野さんの展望記事*3がとてもよくまとまっていたので是非ご一読を。たとえ泥縄でも、なった縄は実際役に立つし、役に立たせないと。

電子書籍サービス

遅々として進まなかった電子書籍サービスの導入は、コロナ禍にともなう閉館と「新しい生活様式」への対応のために、あれよあれよという間に急進展。電流協さんの調査によると、2021年1月1日現在で143自治体139館が導入とのこと。2020年1月1日現在では91自治体88館だった*4そうなので、50以上増えたことになる。例年、10館増えるか増えないかという状況だったのに。

サービスが広がることはいいことだけれど、以前、光交付金デジタルアーカイブがやたらできたときのように、見切り発車でとりあえず始めました、的な所が多いのではないかと思う。日置さんが指摘*5されているように、今後の継続的な運営に向け、予算確保と収集・サービス方針(紙との棲み分けなど)の策定が大事かも。

あと、ただでさえコンテンツの少ない電子書籍サービス、大阪市立図書館さんのように、こまめで地道な広報活動*6が欠かせない。始めたところからがスタート。

 その他

東京都立図書館さんがLINEのbotを使ったレファレンスの実証実験をしていて(終了済)、なかなか面白かった。AIが簡単な質問に自動応答します、だけじゃなくて、回答に満足いかないときは有人チャットに切り替えらる、という仕組みに、都立さんの覚悟と可能性を感じた。『レファレンスと図書館』の世界が、そのうちチャット上で繰り広げられるようになるんだろうか。

今年の大きなトピックとして、著作権法の改正(予定、詳細は『図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書』を)がある。これもコロナによる閉館で文献が入手できない、と声から端を発した、複写物をメール等で送れるようにする、との改正(あと、デジコレ(図書館送信資料)がお家で見られるようになるやつも)が行われる見込み。いまのところ、詳細は関係団体のガイドラインで定めることになるとのことで、動向が注視される。送信の際の補償金の金額や徴収方法、対象となる著作物の条件など、かなりモメそうな気も。

お国が何やら声高に唱えているせいで、いったん下火になったマイナンバーカードの図書館における利用についても、一部で動きがあるかも。関係各位はご愁傷さまとしか言いようがない。そんなものより、遠隔複写手数料を電子マネーで払えたり、Googleアカウントで利用者ポータルから電子書籍サービスまでシングルサインオンできたりするほうが、よっぽど「デジタル技術による業務改善」になるのでは、とは思う。

おわりに

どんどんロートルになっている自覚がある今日コノゴロ、新しい動きについていくのが大変。毎年、各学会で「展望」記事を書かれる方々の視野の広さと日々の努力、ほんと尊敬します。

*1: カレントアウェアネス:E2277 文化庁長官裁定制度による明治期地方紙のインターネット公開国立国会図書館サーチ:連携インタビュー第3弾(デジタルアーカイブ福井),田川雄一「文化庁長官裁定制度を用いた地方新聞画像のインターネット公開とその反応」」(「図書館雑誌」115(1) 2021.1 p.26-27

*2:澤谷晃子「No.1 図書館資料のデジタルアーカイブとその活用を考える」(「図書館界」72巻3号 p. 134-138),是住 久美子「No.2 図書館を拠点とした地域資料の編集とデジタルアーカイブの発信」(同 72巻4号 p. 184-188)),福島幸宏「No. 3図書館の未来像のひとつとしての地域資料活用」(同72巻5号 p. 223-227

*3:岡野裕行「敵を見て矢を矧ぐ/矢を矧ぐための敵」(「日本近代文学」103号 p.94-101) 御恵贈ありがとうございました。

*4:The Wayback Machine:電子図書館(電子貸出サービス)実施図書館(2020年01月01日)

*5:日置将之 「座標「コロナ禍における電子書籍の導入について」」(「図書館界」72巻4号)

*6:たとえば、電子書籍のブックリスト「大阪市立図書館 電子書籍EBSCO eBooksで読むSDGs(持続可能な開発目標)」とか面白いなあ。