BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

2022年の気になる図書館システム関係覚書

2021年中に気になっていて、今後、個人的に注目している図書館システム関係(公共図書館中心)に関する覚書です。独断と偏見でとりとめなく書いています。(ここまでテンプレ)失礼ながら敬称略です。
なお、昨年の覚書はこちら

図書館システム関係

クラウドのシステムが増えたなあという印象。コスト的にも仕方のないところだろうけど、ごくたま〜にダウンすると、広範囲に影響があるから怖い怖い。*1

そしてついに(さすがに)さようならIE。ウェブアプリ系のシステムはEdgeに移行してるものと思われる。ネックだった推奨ブラウザIEのデータベース(特に新聞)も対応*2してきて、一安心。

勤務館でも検討したのだけど、スマートフォンなどによる利用カード代替ができる館が出てきている。*3 ブラウザにログインしてバーコード表示するだけなので、技術的にもセキュリティ的にもそんなに難しいところはない(はず)。また、電子図書館だけ使えればいい、というお客さんなら、ひとまず物理的なカードは要らないという人も出てくるだろうし、今後、主流(というか、あって当たり前の機能)になるかも。

当たり前といえば、今年1月から東京都立図書館が始めたチャットボットサービスも、今後広がるかも。図書館に電話で問い合わせする人々はおそらく使わないだろうけど、潜在利用層は大きいのではないかと思う。ちょっとした質問がチャットですぐわかるのは、お客さんにとってありがたいこと。

自治体の電子申請もこれまた当たり前になってきて、図書館の利用登録なんかも電子申請できるところが現れている。*4 認証を伴わない仮登録レベルでは、ベンダーさんによっては図書館システムで対応できてるとこもあるとか。自治体の汎用電子申請システムを使う場合、そのシステムは、事業者の許認可申請に使うことも考えて多機能・高セキュリティ、しかし使い勝手悪いものもあると思われ、担当者の気苦労が察せられる今日コノゴロ。どことは言わないけれど。

利用登録を電子化するとき、一番問題になるのは本人認証だろう。証明書の画像を使うのが一般的だろうが、マイナンバーカードによる個人認証を活用した実証実験*5も行われている。すでに過去のものであるところの、マイナンバーカードを利用カードの代わりに使う仕組みと違い、利用登録を遠隔で行うときの認証に使うもので、貸出し自体は認証済みのアプリ単体でできるので、マイナンバーカードを持ち歩かなくてもいいらしい。まだ大学図書館での実証実験レベルだけど、近々公立にも導入されるかも。こういう個人認証の仕組みもあらあら知っとかないといけないなあ。

しかし、実際のところ、まだまだシステム連携など夢のまた夢。申請は電子でも、結局、中の人が証明書の画像見て図書館システムに入力して(場合によっては修正のやり取りして)、通知する、みたいなレベル。メルツェルの将棋差しかよ。DX!。でも、まずはここからスタート。2021年9月に鳴り物入りで業務開始したデジタル庁と、その下部組織である自治体のデジタル担当課が、アイドリングを終えて、そろそろ本腰でDX的なものが動き始めるのかしらん。

なお、お役所的にいちばん大変なのは、デジタルを活用したサービスや取り組みを「法令的に正しく」規程化することなのかも。「利用者が自身のスマートフォンタブレットで図書館サイトの利用者ページにログインして貸出用のバーコードを表示させる」みたいなのを法令用語で利用規程に書くのはけっこう大変ですよ、ホント。(遠い目)

電子書籍サービス

コロナを奇貨として、2020年くらいから順調に増え続ける図書館の電子書籍サービス。10月1日現在で比べると、2020年の143自治体139電子図書館から、2021年は258自治体251電子図書館*6へ増加。建前としては、都道府県立が導入してたら県域で使えるわけで、決して珍しくない存在になってきた。

普及期に入ったと思しい電子書籍サービスだけど、コンテンツの少なさはあいかわらずで、これはこつこつベンダーさんに働きかけるしかない。むしろ、今後の課題は、コンテンツのファインダビリティや広報かなと思う。契約や認証の関係で、サービスにログインしないと、どんな電子書籍があるのか、お客さんにはわかりにくい。OPACで検索できない館が多く、ましてや、横断検索では電子書籍サービスがあること自体わからない。コンテンツの少なさもあいまって、電子書籍がオラが図書館で使える、と夢膨らませ、ログインして、ちょっと検索して、読みたい本がなくてがっかり、な、お客さんが多いことは容易に推察される。意外と面白い本はあるのに。また、某MARC屋さんのものはともかく、それ以外の電子図書館システムの書誌データや、電子書籍サイトの検索窓は、あまり使い勝手良くない印象(主観)で、せっかくの電子書籍も、見つけられない、知られない、使われない、という状況が生まれているのではないかと思う。

そもそも、図書館にとっては借り物である電子書籍について、自館の蔵書管理上どう整理するか、その書誌情報や所蔵情報はどのように書くべきか、どのように検索させるべきかのノウハウは、多くの公立図書館は持ってない気がする。ディスカバリーの運用をしている大学図書館に学ぶべきかも。また、紙資料、デジタルアーカイブ電子書籍サービスと、公立図書館の扱う資料の提供基盤が副層化してきている。いまこそカーリルUnitradAPIの力技検索の出番かも。

著作権法関係

御存知のとおり、2021年の著作権法改正*7により、今年5月から国立国会図書館のデジタル化資料が個人送信されるようになる。当面ストリーミング(閲覧のみ、印刷不可)で、利用登録必要(インターネット利用登録者は利用不可、有効期間3年)と、制限はあるけど、莫大な資料が自宅で利用できるというのは大きい。図書館にとっても、メールレファレンスの回答時にデジコレのURLを付して、これ見てね、とお伝えすることがますます増える(おそらくデフォルトになる)のではないかと思う。

なお、2021年末に公表された「国立国会図書館のデジタル化資料の個人送信に関する合意文書」には、末尾に「大学図書館公共図書館等の各図書館等は、国民の情報アクセスを確保する観点から、国立国会図書館及び文化庁文部科学省からの依頼に応じて、国立国会図書館への積極的な絶版等資料の提供に努めることが望ましい。」とある。自分とこの図書館に眠ってる/腐ってる(NDLに所蔵のない)デジタル化資料や、保存に必要な数以上の複本があるなら、とっとと上納するのが吉。

そして、「図書館等による図書館資料のメール送信等」も実施に。これまた懸案だった、コピーは手渡しか郵送のみだったのが、メール添付もOKになるという、画期的な内容。2023年6月までに実施予定で、もはや待ったなしに。とはいえ、実施までのハードルは高く、いまだ全貌が見えないのはなんとも困った限り。実施できる図書館の要件、コピーできる資料の種類、補償金の額と支払い方法、不正な申込みや再コピー・ウェブ漏出を防止する方法の詳細など、現在調整中なことが多すぎ。間に合うの? 来年ですよ来年。まあ、2022年度に「読書活動の推進等に関する調査研究」の一つとして試行実施がある*8とのことで、そこで制度設計・実証実験されるのかしらん。

個人的には、補償金を「個別に算出して、図書館の設置者(公立だと教育委員会?)が払う」という仕組みをどうやって実施するのかが興味深い。あと、各図書館に於かれてはスキャニングしたときの複写手数料の算出根基だけでも、今のうちから考えておく必要があると思われますです。

なお、今回の改正では、著作物のコピーできる範囲の例外規定が変更されることになっている。従来は逐次刊行物のバックナンバーだけだった、「全て」複製できる著作物が「政令で定められるもの」となる。この変更には要注目。雑誌バックナンバーの記事は全部複製できて、図書の論文集に収録された論文は半分まで、という理不尽な規定が見直されるはずだが、逆に、逐次刊行物のバックナンバーに載ったものなら絵画だろうが楽譜だろうが全文複製可、というルールもひょっとすると使えなくなっちゃうかも。

終わりに

私事ながら、当方、今年は五十路になる予定。思えば遠くへ来たもんだ。新聞の縮刷版も虫眼鏡ないと読めなくなったし、書庫の階段登るのも息が切れる。若い人たちが効率よく仕事をこなしていて、頼もしくもうらやましくも。今年こそpythonくらい書けるようになりたいなあ。