BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

2023年の気になる図書館システム関係覚書

2022年中に気になっていて、今後、個人的に注目している図書館システム関係(公共図書館中心)に関する覚書です。独断と偏見でとりとめなく書いています。(ここまでテンプレ) なんかもう2月になってしまったけど気にしない。
なお、昨年の覚書はこちら。

図書館システム関係

2022年で一番衝撃的だったのは、サイバー攻撃でシステムダウンした那覇市立図書館の事例*1ランサムウェアによるものとされ、10月中旬の発生からから4ヶ月近く経った2月中旬現在、予約は近日稼働予定とのことだが、書誌データなどはまだ完全には復旧していない模様*2。書誌情報はともかく、利用者情報とか予約情報にアクセスできなくなるとか悪夢でしかない。関係者の方々の苦労が偲ばれる。最近のランサムウェアは、データの暗号化だけでなく窃取も行うらしいので、今後は下手したら個人情報流出案件になる場合もあるかも。くわばらくわばら。今回の事例、収まったらセキュリティ的に問題ない範囲で詳細と対策を公開してほしい。

また、マイナンバーカードへ図書館利用カードの機能をもたせる、という取組も、2022年中はそれほど大きな動きはなかったけど、今年はどうか。ポイント効果で曲がりなりにもカードの普及率は高まった。年末に発表された「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(PDF直リンク)なるものによると、今後、マイナンバーカードの「市民カード」化のための一機能として、浸透させていく(上記資料19枚目)とのこと。どこまで本気なのか。とはいえ、貸出履歴と結びつくとの誤解によるアレルギー反応も強いようだし、システム的にもこなれてない(マイキープラットフォームかましたり、ベンダーロックだったり。最近あまり注目してないのだけど、この一年進歩してない?)感じで、どうなることやら。

曲がりなりにもデジタル庁なんてものができて、公の世界にもDXだのUXだのといった新語が侵入し、DXとはなんぞや、みたいな15分くらいの研修動画を見せられたり。少なくとも、図書館利用カードの代わりに某カードが使えたり、紙の本を借りる代わりに電子書籍を利用できたりするのは、代替であって変革じゃないし、顧客中心でもないから、DXでもUXでもないよね、ということはわかった。

全国公共図書館研究集会のサービス部門・総合経営部門のテーマもタイムリーなことに「図書館におけるDXの可能性」。原田先生のお話はとても面白かったのだけど、さて、どこから手を付けたらよいやら。あんまり他人のせいにもできないけれど、「貸出記録を残さない」としたことで、良くも悪くもデータを扱うことをやめてしまった業界、なかなか前途は厳しそう。

電子図書館関係

電流協さんの「電子図書館(電子書籍サービス)実施図書館(2023年1月1日)」*3によると、実施自治体は461自治体・369館。2022年1月1日現在*4では272自治体・265館だったので、順調に伸びている。ざっくり3000館ある公立図書館数の1割超える程度にまでなった。都道府県立が導入してる場合、名目上、その都道府県民は電子図書館を利用できるはずなので、人口カバー率でも結構いい値行くのでは。

コロナの副産物として定着した感のある電子図書館だけど、紙との両立(あるいは穏やかな移行)も大きな課題。主にコスト面で。MARC買うのやめて費用を捻出した館もあるとも聞いている。その意味でも、県立と市町村立が共同で運営している、長野県の“デジとしょ信州”はすごいなあ。もともとデジタルアーカイブでも広域で連携できてた*5とこなので、さもありなん、という感じだけど、関係者各位、調整ホント大変だったのではないかと思う。図書館大会の発表聞いとけばよかった。

電子図書館サービス向けコンテンツもそこそこ増えてきてるようだけど、まだまだ少ない。それに、少ない中に面白げな本はあるのだけど、ログインしないとどんな本があるのかわからなかったり、ログインしても書誌情報が貧弱だったりして(読みも件名も入力されてないとかね、某システムさん)、読みたいと思う本がなかなか探せないのが現状かな。(個人の感想です。)初期のアマゾンは、レコメンドとか、読みたい本を探す仕組みづくりに相当力入れてたように思うけど、図書館は例によってそういう動き鈍いなあ。最低でも、WEBOPACと電子図書館システムがちゃんと連携して、わざわざログインしなくても電子図書館のコンテンツが探せることは必須だなと個人的には思う。

コンテンツといえば、児童図書館研究会さんが、「電子図書館調査報告(速報版)」で全国の電子図書館サービスにおける児童書のコンテンツ数を調べられていて*6、綿密な調査に頭が下がる。いくつかの館では児童書数が「不明」になってるけど、思うに、調査は各館のサイトなどに記載されてる数値を採ってると思われ、要は設置者が数を公開してないということらしい。まあ、児童書に当たるものがほとんどない電子図書館システムもあるけど、だったらゼロって自前でちゃんと表示しとけばいいのに。

デジタルアーカイブ関係

国立国会図書館の快進撃が止まらない感じ。昨年5月にはNDLデジコレの個人送信が開始され*7、12月には大幅リニューアルでついに全文検索が実装*8。開始時点で247万冊分の資料の中身がまるまるキーワード検索できる、という、夢のようなというか、恐ろしいというか、とにかくすごいことになった。

固有名詞を入力すればガンガンヒットして、それが公開 or 図書館・個人送信資料になってればその場で確認でき(先日から印刷もできるようになったし)、公開されてなければシームレスに複写を依頼できる。特定の資料を指定しての全文検索もできて、GoogleBook検索の苦労は何だったのか状態。(収録資料が違うので未だに併用必須だけど) 全国民はNDLの個人登録をすべき。でもそうなったら、ある意味、「レファレンス・サービス終了のお知らせ」かも。もちろん対象が広がった分ノイズも格段に増えてしまったし、認識ミスもあるだろうから過信は禁物だけど。あと、今のところOCRかかってるのは図書と雑誌で、プランゲ文庫とか特殊なコレクションにはOCRかかってないみたいだから御注意を。また、古典籍の全文検索“次世代デジタルライブラリー”じゃないとできない。そのうち、本チャンにも実装されるんだろうけど。

おまけに、この恐ろしいOCRプログラムのソースコードは公開されてる*9*10んだそう。今からのデジタルアーカイブOCR全文検索が標準になっちゃうかも。どこかのベンダーさんが採用してくれないかなあ。つか自前でもできるのかも。今後は、とりあえずデジタル化してNDLデジコレに入れてもらう*11、自力のあるとこは自分とこのデジタルアーカイブOCRかけて全文検索、なんてのが一般的になるのかも(なってほしい)なあ。

その他あれこれ

ついにというか、いよいよというか、「各図書館等による図書館資料のメール送信等公衆送信」(一般的には何ていうんだろう、図書館資料公衆送信サービス?)が2023年6月1日開始の見込み*12。あと数ヶ月先ですけど、まだガイドラインもできてないし(3月末公開?)、補償金についても公開されてないし、SARLIBさんのサイトもないし。ほんとに始まるのかしらん(棒)。運用を考えるだけでも、対象資料の著作権の有無をどうやって確認するのかとか、補償金支払いのスキームとか、問題山積で前途多難な感じ。ただ、これが始まったら、曲りなりにも対応する図書館では、スキャナ(複合機レベルかも知れないけど)が置かれて、スキャニングのノウハウが溜まるはず。資料の電子化への小さくて大きな一歩かも。

あと、対話型AIのChatGPTにはほんと驚かされた。内容的には、正確性に欠ける、というか、実になめらかにデタラメを返してくる(あたしが試した例だと、井上馨は漫画家なのだそう。)ので失笑するしかないのだけど、Q&Aがちゃんと成り立ってるように見える、というのはすごい。NDLデジコレとかのデータをちょいとぶっこんだら、レファレンスできちゃうんじゃないの。そもそもそんなに「正しさ」が求められてるわけでもないし(と言ってみたり)。「レファレンスサービス終了のお知らせ(2回め)」。と思ったら同じこと*13を考える人がやっぱりいた。もう出典を明示するやつ*14とかもあるらしいし、そろそろ転職かしらん。まあ、正直、「AIが答えた回答の出典を探してください」なんて質問が来るようになるかも、と考えるとゾッとするなあ。

終わりに

なんかあたしも天命を知る年になったらしいんですけど、一向に降りてこないなあ。

それはそれとして、先日、高校生のプログラミングコンテストの審査動画見てたら、学校図書館の蔵書管理システムがアレなんで自前で予約サービス作った、みたいなのが出てて、高校生が普通にクラウド上でJavascript書いて、蔵書の書誌データにはISBNなかったからNDLから引っ張ってきて7割位埋まったからまあ良しとして、なんてプレゼンしてて、ああ、老兵はただ去るのみだなあと思った*15次第。若人、頑張れ。(無責任)

まあ、AIやならにやら、いつになく大きな変わり目になりそうな、面白い年になりそうな。幸せかどうかは別としても。

 

*1:カレントアウェアネス・ポータル:那覇市立図書館にサイバー攻撃:全館において貸出・返却や予約等のシステムが使用できない状態

*2:カレントアウェアネス:那覇市立図書館、予約サービスを再開予定

*3:このページは更新されちゃうので数値変わる可能性大。

*4:WaybacMachineによる2022年3月16日のアーカイブ:電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施図書館(2022年01月01日)

*5:カレントアウェアネス・ポータル:長野県の歴史・文化・自然等のデジタルアーカイブ「信州デジくら」がオープン

*6:児童図書館研究会:「電子図書館調査報告(速報版)」公開のお知らせ

*7:国立国会図書館:個人向けデジタル化資料送信サービス

*8:国立国会図書館:「国立国会図書館デジタルコレクション」をリニューアルしました(PDF直リンク)

*9:カレントアウェアネス:国立国会図書館、OCR処理プログラムと学習用データセットを公開

*10:カレントアウェアネス:国立国会図書館、「次世代デジタルライブラリー」への古典籍資料のテキストデータ投入を完了:「NDL古典籍OCR」のソースコード等を公開

*11:国立国会図書館:国立国会図書館未収かつ入手困難資料のデータ収集事業へのご協力のお願い

*12:e-GOV:パブリックコメント:「著作権法施行令の一部を改正する政令案」及び「著作権法施行規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について:「著作権法施行令の一部を改正する政令(案)」及び「著作権法施行規則の一部を改正する省令(案)」の概要について(PDF)末尾

*13:Ascii.jp:遠藤諭のプログラミング+日記 第152回:国会図書館デジタルコレクションのリニュアルとChatGPT

*14:Perplexity.aiってやつらしい。まだ試してないです。

*15:でも、その高校生を褒めてた審査員の首長には、少なくとも学校図書館の環境を良くする責任があると思うんだけど。何生徒にタダでやらせてんだよ。