BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

2020年の気になる図書館システム関係覚書

2019年中に気になっていて、個人的に注目している図書館システム関係(公共図書館中心)に関する覚書です。独断と偏見でとりとめなく書いています。

システム担当から外れて幾星霜、でも去年は久しぶりに図書館総合展にも行って、面白そうなことも見聞きしたので、忘れないうちに。ちなみに昨年分はこちら

図書館業務システム関係

業務も扱う品物も、大きく変わっていないのだから、システム自体もそれほど変わるわけもないのだけれど、それでも少しづつ変化はしている模様。

読書履歴(貸出履歴)をシステム上で利用者自身が管理できる仕組みを採用する館が現れている。県立だと福井県立図書館さんとか*1。需要もあるだろうし(あたしも年取って、前に読んだ本のタイトルが思い出せないこともしばしば)、自己情報のコントロール権みたいなものが論ぜられる昨今、当然の流れかと思う。

それにしても、10年くらい前、「図書館の貸出履歴の利用(主にレコメンド)は是か非か、そもそも可能か」が一部で論じられたたことがあったけれど、もう隔世の感がある。少なくとも学問の世界では、図書館のデータ(業務記録)を有効利用しようとする試みが営々と行われている*2 。一方で、図書館自身が、その業務データを自分で分析・活用しようとするところも現れたようで、原田隆史氏の小論*3 の最後で紹介されている。どこの図書館なんだろう。しかし、図書館員も(と言うか現代人の多くが)統計とデータ分析の基礎くらいは身につけないといけない時代の模様。

システムとは直接関係ないけれど、2019年の図書館総合展でシステムベンダーさんのブースを回ったときに特に印象に残ったのは、京セラさんのオーディオブック配信サービスの導入*4。 2020年2月から試験提供とのこと。コンテンツ次第だけど、図書館にもオーディオブックの波が来るかも。

なお、長野県立図書館さんが何やら面白そうな仕様(連想検索とか)でシステム調達してる*5んだけど、気になるなあ。

ちなみに、昨年紹介した砺波市立図書館さんの取り寄せ依頼できる広域横断検索「となみっけ」は、ツイートによると業績アップに貢献している模様でなにより。

ウェブサービスデジタルアーカイブ関係

ジャパンサーチ(BETA)が稼働を開始したことで、今までデジタルアーカイブも含めたポータル的存在であったNDLサーチは「図書館等が扱う情報資源」を扱う形で住み分けしていく*6とのこと。「情報資源」とあるように、図書館のデジタルコンテンツ(のメタデータ)も、一旦NDLサーチで取りまとめてから、ジャパンサーチに送られる仕組みになる模様。図書館がデジタルアーカイブを作るときには、当然、連携が前提だろうから、これからは、すでにNDLサーチと連携済みのプラットフォームを使うのがますます主流になると思われる。

なお、将来的には、都道府県立図書館がOAI-PMH等による総合目録システムを構築することで、域内の市町村立図書館の書誌・所蔵データを吸い上げ、最終的にNDLサーチから日本全国の公立図書館の所蔵検索が可能になるのかもしれない。(三重県立図書館さんは、OAI-PMHによる横断検索を一部実装済みとのこと*7)ただし、まだまだ先の話。システム間の連携調整はそれなりに大変だし、正直、カーリルローカルを使えば、全国の市町村立図書館の蔵書をかなり早く検索することができるから、どこまで需要があるのかしらん。

あと、2019年の図書館総合展で(個人的に)一番尖ってたのは、このフォーラム*8だったように思う。ここで言われていた、公開されてるはずのデジタルアーカイブのコンテンツがダウンロードできない、できても解像度が低い、そもそもデジタルになってないものが多すぎる、図書館側がデジタルを使いこなす利用者に対応できていない、などなどのご指摘はいちいちごもっともで、ぐうの音も出ない。うう、がんばりますので長い目で見ていただけると……。コスト、著作権、コンテンツの管理(「お宝」を勝手に「使われる」ことへの警戒感)など、問題は山積してるけれど、それが少しずつでも表面化して、共有されて、解決していけるような流れが来ると良いなと思います。

まあ、本格的なデジタルアーカイブが、一般的な公共図書館にはまだまだハードル高いのは事実。昔々、上田市情報ライブラリーさんが地域資料と思われる注連飾りの作り方の小冊子をスキャンして公開してたことがあった(現在は消失*9)。たぶん、コスト的には殆どかかってなかったはず。今必要なのは、こういう地域密着な資料のささやかなデジタル公開なんじゃないかなと思ったり。

あと、これも総合展で見た「みんなで翻刻」のくずし字文字認識AIの精度にはびっくり。これ、いわゆる地域新聞の翻刻・索引化にも応用できないかなあ。地域新聞のデジタル画像を持ってる(そして死蔵してる)図書館は少なくなさそうだし、AIとクラウドソーシングで地域の新聞を翻刻する、「みんなで地域新聞翻刻」とかできるといいなあ。

電子書籍サービス関係

電流協さんによると、2019年10月1日現在、電子書籍サービスを導入している図書館は、89自治体、86館とのこと。(ちなみに昨年は81自治体、78館だった。)まあ、伸び方も例年どおり。

年末に、電子書籍サービスの大手OverDriveを、親会社である楽天が売却*10、というニュースが飛び込んできた。必ずしも日本での成績が振るわないから、というわけでもないみたい*11。日本への影響はあるのかないないのか、よくわからないところ。

ちなみに、年末に田舎に帰省して、餅つきしてたとき(このくらいの田舎だと思ってください)に、手伝いに来てた近所のおばちゃんが、「最近、(紙の)本をとんと読まなくなって。代わりに「dマガジン」ばっかり読みよる。」って言ってた。世の中、着実に変わってる模様。

おわりに

一年立つのは早いなあ。去年これしか書いてないので今年はなんとかしたい……です。

*1:2020年1月8日追記、網羅的に調べてるわけじゃないので漏れ多数。例えば、岐阜県図書館でも。カレントアウェアネス・ポータル 2020年12月19日 岐阜県図書館、ウェブサイトをリニューアル:スマートフォンでの貸出が可能に

*2:例えば、岸田和明「図書館利用データの解析とその活用」(「情報の科学と技術」69(3) p106-110 2019)を参照。

*3:原田隆史「《座標》図書館の評価」(『図書館界』71巻2号 2019.6)

*4:カレントアウェアネスポータル 2019年11月12日:京セラコミュニケーションシステム株式会社、公共図書館システム「ELCIELO」と株式会社オトバンクの「audiobook.jp」を連携させたオーディオブック配信サービスの提供を開始へ

*5:WARP 2019年11月4日保存:県立長野図書館業務コンピュータシステム及び機器一式に関する公告

*6:川瀬直人「NDLサーチのこれまでと今後」(PDF直リンク)第21回図書館総合展フォーラム「国立国会図書館サーチのこれから:書籍等分野・図書館領域のつなぎ役として」 2019年11月)

*7:垣内志織「NDLサーチ連携候補機関からの事例報告;三重県総合目録の現状と今後の展望」(PDF直リンク)( 第21回図書館総合展フォーラム「国立国会図書館サーチのこれから:書籍等分野・図書館領域のつなぎ役として」 2019年11月)

*8:第21回図書館総合展フォーラム「地域資料とデジタルアーカイブのミッシングリンク-図書館の底力への期待-」(2019年11月)」

*9:InternetArchive:「インターネット版「注連飾りの作り方」」

*10:カレントアウェアネスポータル 2019年12月25日:楽天株式会社、同社傘下で電子書籍サービスを手掛けるOverDrive Holdingsの全株式を売却へ

*11:

HON.jp:大原ケイのアメリカ出版業界解説「楽天からオーバードライブを買ったKKRのリチャード・サーノフ氏は何者でどういう意図なのか?」