BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

図書館の未来像が見える!『千代田図書館とは何か』

千代田図書館とは何か─新しい公共空間の形成

千代田図書館とは何か─新しい公共空間の形成


千代田区立千代田図書館には、リニューアル直後に一度だけ行ってみた事がある。いわゆる国社研(って当時はもう名前変わってたけど)の専門講座に参加させてもらったときだったと思う。
その日の講義終了後に、地下鉄を乗り継いで図書館のある近代的なビルに着いたときは六時半ごろだったか、一階のパン屋さんで腹ごしらえをして、エレベーターへ。指定管理者制度導入、コンシェルジュ、夜間開館、新書マップなどなど、刺激的な話題に事欠かない図書館だったから、千代田何するものぞ、とばかりに気負って乗り込んだ。
でも、あまり強い印象は残っていない。確かにスーツの人が多いけど、意外と蔵書が少ないし、禁帯出の本ばかりだな、と思った。コンシェルジュはなにやら忙しそうだったし、新書マップも、ふうん、借りられないのね、で終わり。展示の満足度アンケートをとっていて、これはいいな、と思ったくらいかな(真似しようと思って未だにできてないけど)。
今思えば、千代田図書館のコンセプトを何一つ理解しないまま、「偵察に来て蔵書の古さ・少なさを見て(自館のほうが勝った!と)安心して帰った図書館員」(75p)の一人だったように思う。
あれから数年たち、この本を読んで、千代田図書館の新しさが曲がりなりにも理解できるようになった。
この本で著者が展開している、既存の公共図書館に対する批判は甚だ痛烈だ。万人に開かれた無料の図書館が、その実、少しも公平なものではない(だから七割のお客様は見向きもしない)という、当方を含む多くの図書館員が見て見ぬふりをしている事実をあらためて指摘されると、思わず目を背けたくなる。公僕たる公立図書館員がお客様を選り好みするとはナニゴトか、とか、児童サービスは奥深いもので、将来のお客様を獲得するために必須の取り組みだとか、的外れな言い訳に逃げ込んでしまいそうになる。
しかし、「『公平であること』よりも、様々な利用者層に対して「公平にしてゆくこと」を重視しなければ、公共図書館の公平性は保てない」(p191)という著者の主張には大いに頷かされる。厳しい言葉に耳が痛い一方で、励まされる思いがする。既存のサービスにいたずらに拘泥してばかりでは何も始まらない。住民ニーズを分析し、ふさわしいサービスを開発し、評価に基づき改善していく、という不断の取り組みこそが、著者も触れているように(p16)、ランガナタンのいう「成長する有機体」としての図書館の真の姿なのではないか。
もちろん全ての公共図書館が千代田図書館のようになる必要はないし、うわべだけ真似ても仕方がない(それこそ、独りよがりの似非公共図書館になりかねない)。同志としてのお客様とともに、よりよいサービス、よりよい図書館を作り上げるため、今、何をすべきか、自分の足元を見つめなおさなくてはならない。その道のりを考えるとくらくらするけど、きっと面白いんじゃないかな。