BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

非読書家による「読書案内」

読書案内が苦手だ。

図書館で仕事をしてるからには読書家に違いない、という先入観をもたれやすいのは仕方のないところだけど、飲み会とかで初対面の人と一緒になると、たいてい「おススメの本は?」と聞かれる。そして、この場合の「本」とは、何かしら小説の類を期待されていることが多い。とても読書家とはいえない当方の場合、「申し訳ないですが、日本の小説はあまり読まないのです(マジで)」、とか言ってお茶を濁すことがシバシバだ。

職場のカウンターで同じことを聞かれたときは、さすがに、「どんな本が面白かったですか?」とか、「好きな作家さんは?」といったレファレンスインタビューでなんとかとっかかりを見つけて、それに合うものを探すのだけれど、それにしてもうまく答えられた覚えがあまりない。

何しろ、小説の類を探すときには目録検索が通用しないことがほとんど。同じ作家の著作を探すのなら問題ないけど、「これと似たような小説」を、と言われたときにどうするか。

分類番号でも件名でも、その小説の中身まではわからない。MARCのあらすじや内容紹介も、最近は充実してきたけれど、ストーリーのさわりを紋切り型に紹介しているだけで、検索するにはキーワードが少なすぎる。結末が明るい話を探すとか、ほぼ不可能。

『絵本の住所録』のような、定番のレファレンスブックやツールもない。ジャンルごとのガイドブックは星の数ほどあるけれど、それ自体が読みもの的だったりして検索性の低いものが多い。日外アソシエーツの『読書案内』シリーズなんかは、小説に特化したものは90年代刊で、ちょっと古い感じ。絵本のように長く読み継がれるものが基本書として存在するわけでもなく、流行り廃りが激しい上に、あまりに多様で一冊の文量も多い小説の類は、ツール作成者泣かせではある。

レファ協にて「読書案内」で検索してみると、やっぱりそれらしい事例は少ない。2つ紹介してみる。

「85歳の母が病院(入院している)で読む小説を紹介してください。ミステリ、時代小説、暗い話、ホラーは読みません。」(日進市立図書館)

入院されているお客様のためとあって、暗くない話を、との心づかいはさすが。ただ、どうしても「自分が読んできた中でいくつかピックアップ」という方法を取らざるを得ないのがつらいところ。

「「ヘンリーくん」シリーズと同じくらい面白い本を紹介してほしい。8歳の娘のクリスマスプレゼント用にしたい。娘は同シリーズを読破し、台詞を覚えるほどに読み込んでいる。去年のプレゼントの「ロッタちゃん」は面白くなかったそうで、一度しか読まなかった。ケストナーはいまひとつ、レオ・レオニは嫌い、松岡享子は好き、「ハリーポッター」はわりと面白かった、と好みがはっきりしている。」(福井県立図書館)

児童書だけど、いかにもな事例なので紹介。「「ヘンリーくん」シリーズと同じくらい」って、ハードル高いな。まあ、お客様の好みがはっきりしていると、絞りやすくて助かる。でも、「自分では手に取らないけど、薦められて読んでみたら面白かった」的な、セレンディピティ体験もして欲しくて、選ぶ方としては悩ましいところ。この事例では、主にブックリストと同僚の意見から選んでいて、おそらく調査者自身の読書体験も選定の判断基準に含まれていると思われる。

登録事例が10万件とっくに超えたはずのレファ協でも、主だった事例はこれくらい。せめて事例の共有くらいしようよ、と思う。登録されにくい(=記録されにくい)のは、自身の読書体験が、調査や資料選択の根拠となっていて、客観性・再現性がないためかな、とも思う。

読書案内を求めているお客さまの方にも、たくさん本を読んでいる(はず)の司書ならではの生の声を聞きたい、「司書であるあなたが読んで面白かった、私におススメの小説」が知りたい、という期待はあるはず。カタログやツールから客観的に選んだ本は、そもそもお呼びでないのかもしれない。

児童サービスの鉄則の一つとして、とにかく絵本・児童書を読む、というのがよくいわれる。結局、読書案内のためには、仕事としてとにかくたくさん本を読んでね、ということか。まあ、どんだけ読めばいいんだ、という話ではある。

書評家やブックディレクターと呼ばれるような人たちはもちろん、書店員さんも、たぶんプロとして、自分の好みに関係なく、無数の本を読み続けているのだろう。司書だって、自分の商材と無縁であるわけにはいかない。でも、読書経験の多寡にかかわらず、オススメ本を効率よく探して提示する技法やツールを駆使できるのが、本を探すプロってもんじゃないのか、とも思う、今日コノゴロ。