BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

立つ鳥、後に残す、ということ

春は別れの時期でもある。今年も、長く図書館を支えてきた多くのベテラン司書が、現場を離れていくことになる。その方々が獲得し蓄積してきたノウハウが、今まさに、失われつつある。
特にレファレンスには、長年の経験が必要とされている。資料の知識、インタビューのスキル、業界内外とのコネクション、皆、一朝一夕には得られない。経験こそ貴重な財産。だが、それは司書一人ひとりの所有物なのだろうか。
確かに、長年努力して研鑽を積んだのは一人ひとりの司書。しかし、少なくともレファレンスは、質問してくださるお客様がいて、初めて成立するもの。レファレンスの経験の蓄積とは、いわば、司書とお客さまとの共演が生んだ宝物だ。ベテラン司書が欠けることで、その宝物が失われてしまうとしたら、こんなに悲しいことはない。
音楽家は、楽譜を残すことで、自身の仕事を後世に伝えている。楽譜がなければ、どんなに素晴らしい音楽も、その場限り。財産として後世に伝わることはない。司書の仕事も、できる限り記録して、残し伝えていくべきだ。マニュアルでも、レファレンス記録でも、パスファインダーでもいい。ベテラン司書は自分の、そうでない司書はベテランから聞きだした、この貴重な暗黙知を、どんな形でもいいから文字化して、残して欲しい。できれば、お客様とも共有できる形で残せたら、なお良い。
資料を次代のお客様に残すことは、図書館の使命の一つ。ならば、資料を効率よく使うためのノウハウを、次代のお客様のために伝え残しておくのは、当然のこと。ともすれば、その場限りのものとなりがちな司書のパフォーマンス(功績)が、いたずらに失われてしまうことのないよう、切に願う。