BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

歯医者と図書館、あるいは一見さんとお馴染さん

最近まで、えらく長いこと歯医者にかかっていた。
痛みが我慢できなくなるまで放置する性質なので、ヒドイ虫歯が何本もあったし、これを機会に痛みのない軽微なヤツも徹底的に治してもらったが故の長期治療ではある。また、治療技術上の問題から、一度に処置できないので、週一で少しずつ治さざるを得なかった、というのもあるかもしれない。でも、治してもらっといて言うのもナンだけど、「もっと早く治療が終わらなかったのかな、それともまさか、オイシイ客として治療を引き延ばされたのかな」という気がしないでもない。
何しろ、耐えがたく痛むから治療に行くのであって、痛みが無くなればとりあえずオッケー。「治っても月に一度はメンテナンスにおいでください」とか言われても、休みもなかなか取れないし、お金かかるし、そもそも、もう痛くないし。歯医者に限ったことではないけれど、病院に行くのは体に耐えがたい問題が起こったからであって、それが解消すれば本来行きたくない、行く必要のないところだ(持病持ちで定期メンテが必須な人は別だけど)。
だから、病院のビジネスモデルは、ある意味、矛盾を抱えているように思える。病気を早く治してくれる病院は、当然良い病院だ。でも、病気を素早く完璧に治せば治すほど、その患者さんは病院に来なくなってしまう。従って、一度患者さんを捕まえたら放したくない病院側は、治療をできる限り引き延ばしたい。でも、なかなか治らないと、逆にヤブのレッテルを張られかねない……。悩ましいところではある。
おそらく、引き延ばし戦略をとったとするならば、短期的には利を得ることが出来る。でも、地域で信頼される安定経営の病院になることはできないだろう。むしろ、治療を確実かつ速やかに行うことで信頼を得るほうが、長期的には有利なはず。一人の患者さんから得られる治療費は当然少なくなる。だけど、早く治った患者さんは、自身もリピーターになってくれる上に、「あそこの病院はよかったよ」と口コミで広めてくれるかもしれない。むしろ後者の効果によって、信頼と評判を得ることの方がより優位につながるに違いない。かかりつけ医に決めて来てくれるリピーター患者さんの払う治療費は、もちろん貴重な収入源。でも、彼らが呼び込んでくれる新規の患者さんを満足させ、それがまた新たな患者さんを、というサイクルをいかに維持するか、ということに病院の経営がかかっているように思える。重要なのは、やっぱり顧客開拓、広く浅くという戦略こそ重要なのだ。
病気は、あらゆる人に起こる。しかも、健康管理に気をつけないと(あるいは、気をつけていても)、それなりの頻度で起こる。問題を抱えた患者さんは常に一定数発生するのだ。病院は、新規顧客はもちろん、リピーターにも事欠かない業種だろう。でも、図書館はどうだろう。
世の中、そんなに四六時中トラブルを抱えている人がいるとは思えない。日ごろ図書館を使わない、でも、ある課題を抱えたお客様が、たまたま図書館に来て首尾よく課題解決できたとして、その方が次に図書館に来てくれるのはいつなのだろう。一年先か二年先か。むしろ、そんな課題にぶつからないことをそのお客さまも図書館も望むだろう。課題解決支援サービスは、その意味で、効率の悪いサービスだ。図書館は、お客様の課題が一度の来館で解決しないように、何度も図書館に足を運ぶように、引き延ばし引き延ばし、小出しに資料を提供するのだろうか。それとも、お客様が次の新しい困りごとに遭遇するのを、底意地悪く待つのだろうか。ナンセンスだ。
課題解決支援サービスは、本質的に、新規顧客を必要とするサービスなのだ。常に新しいお客様の新しい課題に対応していかなくては成り立たない。しかも、新しいお客様が戸惑いなく利用できるように、利用案内やサインなども工夫が必要になる。今まで以上に、お客様目線で、ニッチで、柔軟な発想が求められている。