BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

ないこと恐怖症を超えて

司書は、本が棚にないことを恐れる。
お客様からお問い合わせがあったとき、その資料をその場で手渡せない、ということを極度に恐れる。資料を、モノとして持っていたい、それを自分が手渡したい、という思いは、もはや執着でさえある。
例えば、改正されてしまった法律の解説書。もちろん新しい版をそろえるけれど、旧版も、一部が変わっただけで全体としては使えるから、と、書架に残して置いたりする。新版が貸出中でも、旧版だったらありますよ、というわけ。でも、旧版だけが残された棚を見たら、お客様はどう思うだろう。
例えば、外部データベースや、電子ジャーナルを毛嫌いする。なるほど、高額だし、そんなに利用も見込めない。でも、公立図書館に根付かない本当の理由は、モノとして残らないからだと思う。資料保存は図書館の使命だけれど、今、役に立つものをお客様に提供することも同じくらい大事だ。
例えば、比較的新しかったり、ロングセラーだったりする本が、たまたま自館にないとき、その本が買えるくらいのコスト(送料と人件費)をかけて、他館から取り寄せて提供したりする。書店でも買えますよ、と一言添えても、サービス低下とはいえないはず。
それは、資料への愛とは異なる。愛書家は、除籍なんかしないし、愛するモノを段ボールに詰めたり、床置きしたりはしない。
それは、お客様のため、のものではない。単に、本がないこと、他でもない自分たちの手でお客様に本を渡せないことへの恐怖症。
克服しないといけない。