BEAYS(新装版)

本と図書館のことについて、つらつら書いてゆくblogです。

お客様という呼び方

当方のお師匠さんは国文学者なのだけど、彼は、物語の登場人物に使われる呼称(名前や官位)に注目して、物語作者の意図や背景を浮かび上がらせる優れた論文をいくつも著している。
ある人がある人をどのように呼ぶか、ということは、両者の関係性に因っている。「お母さん」「母ちゃん」「おふくろ」「母上」「母堂」……。おなじ「母」を表す言葉でもみなニュアンスが違うし、その使い分けが、発言者と「母」との関係やシチュエーションの差異を表現しているのだ。
最近、意識的に「お客様」という言葉を使うようにしている。業界では一般に「利用者」という呼称を使っているようだ(少なくとも、当方の職場ではそう)。これが役所ならば、国民であったり市民であったりするのだろう。でも、あえてこの呼称にこだわるのは、「利用者」という呼称が、やっぱりどこか「上から目線」だな、と思うようになったからで、お客様志向を見失いがちな当方にとっては自戒の意味が強い。まずは言葉から、と思った次第。
そういえば、新米の時には、カウンターで貸出(貸出というのも図書館側からの言葉だ)処理をした本を手渡すとき、ありがとうございます、と言い添えたら、側にいた上司に注意されたこともあった。商売してるんじゃないんだから、とのこと。
徒に媚びるつもりも、へりくだるつもりもないのだけど、気持ちよく使っていただくための最低限の流儀や言葉遣いは自然に身につけておきたい。